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その口臭、原因は最強レベルの歯周病菌かも?レッドコンプレックスのサインと対策

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その口臭、原因は最強レベルの歯周病菌かも?レッドコンプレックスのサインと対策

1. はじめに:気になるその口臭、歯磨きだけでは消えない原因とは?

「毎日しっかり歯を磨いているのに、なぜか口臭が気になる…」「人と話すときに、つい口元を手で覆ってしまう」そんな経験はありませんか?そのなかなか消えない頑固な口臭の根本原因は、単純なブラッシング不足とは異なる、もっと根深い問題が潜んでいることも考えられます。それは、歯周病を引き起こす細菌の中でも特に悪性度が高いとされる特殊な細菌群「レッドコンプレックス」かもしれません。この記事では、多くの方も無関係ではないこの細菌群の正体と、見逃してはいけないサイン、さらに歯科医院で受けられる専門的な対策方法について、専門的な知見を基に分かりやすく解説していきます。

口臭

2. 歯周病の“主犯格”?レッドコンプレックスの正体

レッドコンプレックスとは、歯周病の進行に深く関わる3種類の特定の細菌(P.ジンジバリス菌T.デンティコーラ菌T.フォーサイシア菌)の総称です。これらは、歯周病が進行した患者さんの歯周ポケットの深い場所(歯と歯茎の間の溝)を好んで生息します。この細菌群が歯周病の“主犯格”とまで言われることがあるのは、互いに協力し合って歯を支える組織を破壊する強力な酵素を産生したり、体の免疫システムから巧みに逃れたりする能力に長けているためです。数多くの研究報告により、レッドコンプレックスの存在が重度の歯周病と強く結びついていることが明らかにされており、歯周病ケアにおいて特に警戒すべき細菌群と位置づけられています。

レッドコンプレックス

上に行くほど毒性が高いと言われています

3. なぜレッドコンプレックスは強い口臭を発生させるのか?

なぜレッドコンプレックスは強い口臭の原因となるのでしょうか。その答えは、これらの細菌が行う活動の中に隠されています。これらの細菌は、「揮発性硫黄化合物(VSC)」という強力な臭気ガスを生成する能力に秀でています。VSCは口臭の主成分であり、特に「腐った玉ねぎ」のような不快な臭いを持つメチルメルカプタンが、口臭の印象を大きく左右します。 複数の研究論文で歯周病と口臭(Halitosis)の強い関連が示されており、2003年に発表されたTorresyapらの研究では、歯周病患者さんの呼気中のVSC濃度と歯周ポケット内の細菌種との関連が調査されました。その結果、特にレッドコンプレックスを構成するP.ジンジバリス菌T.フォーサイシア菌の数が、このメチルメルカプタンの濃度と非常に強い相関関係にあることが示されています。つまり、レッドコンプレックスの存在が、科学的にも強い口臭の直接的な原因であることが裏付けられているのです。

レッドコンプレックスと口臭

4. 口臭だけじゃない!見逃してはいけないレッドコンプレックスの危険なサイン

口臭の悪化は注意すべき兆候ですが、レッドコンプレックスの活動が活発になっている可能性は他の症状にも現れます。以下のようなサインに心当たりはありませんか?たとえ一つでも該当する場合、歯周病が静かに進んでいるサインかもしれません。

  • 歯磨きの時に歯茎から血が出ることが多い
  • 歯茎が赤く腫れぼったい感じがする
  • 以前より歯が長く見えるようになった
  • 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった
  • 歯が少しグラグラと揺れる感じがする
  • 歯茎を押すと白い膿が出ることがある

これらの症状は、レッドコンプレックスがお口の中で悪影響を及ぼしている兆候かもしれません。専門家による状態のチェックを早めに受けることが推奨されます。

歯周病の進行

5. 放置するリスクは歯だけじゃない?歯周病の進行と全身への影響

レッドコンプレックスが引き起こす歯周病を放置すると、歯の基盤となる歯槽骨が溶けてしまうことで、歯の動揺が大きくなり、やがては歯が自然に脱落してしまうリスクがあります。実際に、歯周病患者の歯の喪失を予測する研究も数多く行われています。しかし、そのリスクはお口の中だけにとどまりません。複数の研究結果を統合・分析した論文(システマティックレビューなど)では、歯周病菌、とりわけレッドコンプレックス由来の菌や毒素成分が血流を介して全身に運ばれ、糖尿病や心血管疾患、関節リウマチといった全身のコンディション悪化に関わる可能性が示唆されています。お口のケアが、体全体の健康を守るための重要な鍵となるのです。

6. 矯正治療を始める前に知っておきたい、歯周病菌との関係

レッドコンプレックスは歯並びを整える矯正治療とも関係してきます、矯正治療を安全に進めるためには、この歯周病菌のコントロールが不可欠なのです。

矯正治療、例えばワイヤー矯正を実施している期間は、装置の構造上、どうしてもプラーク(歯垢)が付着しやすくなります。研究によっては、矯正装置の結紮(けっさつ)に使うゴム(エラストメリックリガチャー)がプラークの蓄積を助長することも指摘されています。これにより、一時的にお口の中の歯周病リスクが上昇することが知られています。歯茎が引き締まった健康な状態なら、通常は大きなトラブルに発展することは稀です。しかし、もしレッドコンプレックスのような悪性度の高い細菌が潜んでいる状態で矯正治療を開始すると、治療の過程で歯周病が急速に悪化してしまう懸念もあります。そのため、多くの矯正歯科では、治療をスタートさせる前に、歯周病に関する精密な検査を行うことが一般的です。お口の中を健康な状態に整えてから矯正治療をスタートすることが、安全で美しい歯並びを手に入れるための大前提となります。

ワイヤー矯正歯磨き

7. 歯科医院でできるレッドコンプレックスへの具体的な対策と検査

もしレッドコンプレックスが疑われる場合、歯科医院では効果的なアプローチが複数用意されています。対策の基本は、歯科衛生士が行う専門的な機械的清掃(PMTC)や、歯周ポケット内部の歯石を取り除く処置(SRP)です。これにより、細菌のすみかとなる汚れを徹底的に取り除きます。さらに、より正確な診断のために、唾液や歯周ポケット内のプラークを採取して行う「細菌検査(PCR法など)」があります。この検査により、レッドコンプレックスがどのくらい存在するかを特定でき、その結果に基づいて、必要であれば抗菌薬を用いた薬物療法(歯周内科治療)を併用するなど、より的を絞った効果的なアプローチが可能になります。

検査

8. まとめ:気になるサインは放置せず、まず専門家へ相談を

歯磨きだけでは消えない口臭や歯茎からの出血は、レッドコンプレックスのような悪玉菌が潜んでいる体からの重要なサインかもしれません。放置すると歯を失うだけでなく、全身のコンディションにまで影響するリスクはありますが、正しい知識を持てば恐れることはありません。レッドコンプレックスは、現代の歯科医療において、適切な診断と処置によって管理することが可能です。もし少しでも思い当たる兆候があれば、一人で悩まずに、まずは歯科医院で専門家に相談してみてください。あなたの不安を解消し、健康な口腔環境を取り戻すための最適な方法を一緒に考えてくれるはずです。


参考文献

  • ・Socransky SS, Haffajee AD, Cugini MA, Smith C, Kent RL Jr. (1998). "Microbial complexes in subgingival plaque". J Clin Periodontol. 25(2):134-44.
  • ・Hajishengallis G. (2015). "Periodontitis: from microbial immune subversion to systemic inflammation". Nat Rev Immunol. 15(1):30-44.
  • ・Torresyap G, Haffajee AD, Socransky SS. (2003). "Relationship between volatile sulfur compounds in expired air and subgingival species in subjects with periodontitis". Journal of Clinical Periodontology. 30(11):1013-9.
  • ・Silva MF et al. (2017) "Is periodontitis associated with halitosis? A systematic review and meta-regression analysis". J Clin Periodontol. 44(10):1003-1009.
  • ・Helal O et al. (2019) "Predictors for tooth loss in periodontitis patients: A systematic review of observational studies". J Clin Periodontol. 46(8):849-861.
  • ・Alwithanani N et al. (2023) "Periodontal Diseases and Heart Diseases: A Systemic Review". J Pharm Bioallied Sci. 15(Suppl 1):S1-S6.
  • ・Pithon MM et al. (2024) "Influence of elastomeric and steel ligatures on periodontal health, microbial composition, and orthodontic pain: a systematic review and meta-analysis". Prog Orthod. 25(1):1.

■クリーニング(ホワイトエッセンス)
内容:歯石取り(縁上歯石)、フロッシング、PMTC、舌クリーニングなど
費用(自費):9,900円〜13,200円(税込)
期間、回数:通常1日、1回(内容により異なります)
副作用・リスク:知覚過敏の方は、刺激を感じる場合があります。
※当メニューは歯茎の上に見える歯石(縁上歯石)の除去を目的としており、歯周病治療として歯茎の中の歯石(縁下歯石)を除去するSRPは別途自費診療となります。