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ガミースマイル、原因は骨格?唇?歯の長さ?タイプ別の治療について

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1. はじめに:ガミースマイルとは?

「思いっきり笑いたいけれど、歯茎が見えすぎてしまうのが気になる…」
「口元を手で隠すのが癖になっている」

笑った時に上の歯茎が過度に目立ってしまう状態を「ガミースマイル(Excessive Gingival Display)」と呼びます。コンプレックスに感じ、悩んでいる方は決して少なくありません。笑ったときに見える歯茎が1~2mmを正常とし、それ以上の方はガミースマイルと言われています。

ガミースマイルの治療を考える上で最も重要なことは、「なぜ歯茎が目立って見えるのか?」という原因を正確に知ることです。近年の論文でも、「治療の成功は原因の正確な診断に依存する」と言われており、治療法の選択は個別化されるべき、という考え方が主流です。

この記事では、ガミースマイルの主な3つの原因と、それぞれに対応する治療の選択肢について、科学的根拠を基に分かりやすく解説していきます。

ガミースマイル

2. 原因①【歯の問題】歯が小さい、または歯茎が被さっている

歯の大きさや生え方が原因でガミースマイルに見えるケースです。専門的には「受動的萌出異常(Altered Passive Eruption-APE)」や上の前歯の過剰な萌出などがこれにあたります。

このタイプの特徴

  • 歯の縦の長さが短く、正方形に近い形に見える
  • 歯茎が厚く、歯に多く被さっている印象がある

考えられる治療法

主に歯の位置が原因で骨格性の問題が軽度な場合に対しては、歯の周りの組織にアプローチする方法が検討されます。

  • 歯冠長延長術(Crown Lengthening)
    歯茎や、場合によってはその下にある骨の形を整え、歯茎に隠れていた歯の部分を露出させる外科的な処置です。多くの臨床研究で、この原因に対する有効性と長期的な安定性が示されています。
  • 矯正歯科治療
    歯が適切な位置まで生えきっていない、あるいは前方に傾いて生えていることで歯茎が目立つ場合、矯正治療によって歯を正しい位置へ移動させるアプローチや、矯正用アンカースクリュー(TADs)と呼ばれる小さいネジを固定源としてゴムを用いて伸びすぎた上の前歯を骨の方向へ圧下(骨の中の方向に押し込む)させる方法が有効な選択肢です。

外科手術を伴わないため、患者様への負担が少ない有効な選択肢です。特に重度でないケースにおいて、顔貌の審美性を改善できることが示されています。

歯冠長延長術

3. 原因②【唇の問題】上唇が上がりすぎる、または薄い

歯や骨格に問題がなくても、上唇の筋肉の動きが強すぎること(上唇挙筋の過活動)で歯茎が過剰に見えてしまうタイプです。

このタイプの特徴

  • 通常時の唇の位置は普通だが、笑うと唇が薄くなり、大きく上にめくれ上がる
  • 鼻の下から唇までの距離が短いことがある

考えられる治療法

唇の動きをコントロールするアプローチが中心となります。

  • ボツリヌス治療
    上唇を上げる筋肉にボツリヌストキシンを注射し、筋肉の働きを一時的に弱めることで、唇が過剰に上がるのを抑える方法です。複数のランダム化比較試験(RCT)をまとめたシステマティックレビューにおいて、その有効性が報告されています。ただし、効果は永続的ではなく、一般的に3〜6ヶ月程度で、効果を維持するには反復投与が必要とされています。
  • 上唇粘膜切除術(Lip Repositioning Surgery)
    上唇の内側の粘膜の一部を切除して縫い縮めることで、唇が上がる範囲を物理的に制限する外科処置です。ボツリヌス治療と比較して、より持続的な効果が期待できるとされています。

効果は一時的(通常3〜6ヶ月)と言われていますが、患者様への負担が非常に少ない有効な選択肢です。効果を維持するには定期的な再注射が必要です。

ガミースマイルボトックス

4. 原因③【骨格の問題】上顎の骨が縦に長い、または前に出ている

顔全体のバランスに対して、上の顎の骨が縦方向に長すぎたり、前方に突出していたりする(上顎骨の垂直的過成長)タイプです。主に上顎骨の垂直的過成長、専門的には (Vertical Maxillary Excess - VME)と言ったりします。

このタイプの特徴

  • 意識しないと口が閉じにくく、口元が盛り上がって見える
  • 笑った時だけでなく、無表情の時も上の歯が見えていることがある

考えられる治療法

骨格そのものに原因があるため、骨の位置を修正するアプローチが根本的な改善策として検討されます。

  • 外科的矯正治療(骨切り手術を伴う矯正治療)
    特に上顎骨の一部を切って理想的な位置に移動させる顎骨手術(ルフォーⅠ型骨切り術など)を組み合わせる治療法です。複数のメタアナリシス(複数の研究データを統合して解析する手法)において、重度の骨格性ガミースマイルに対する最も効果的な治療法の一つとして結論づけられています。身体への負担は他の治療より大きくなりますが、顔全体のバランスを整える効果が期待できます。

侵襲性は高いですが、重度の骨格的な問題を根本から解決でき、安定的で長期的な結果が期待できる治療法です。

ルフォーⅠ型

5. 複数の原因が複合しているケースも

これまで3つの主な原因を解説しましたが、臨床現場で最も多いのは、これらの原因が複数組み合わさっている複合型のガミースマイルです。

例えば、「骨格が少し縦に長い」上に「唇を上げる筋肉も強い」といったケースです。このような場合、一つの治療法だけでは満足のいく結果が得られにくいことがあります。

そのため、レントゲン(セファログラム)による骨格分析、歯や歯茎の状態の診査、唇の動きの評価などを通じて、どの要因がどの程度影響しているのかを精密に診断することが極めて重要になります。これにより、個々の患者様に最適化された治療計画を立案することが可能となります。

6. まとめ:最適な治療は正確な原因診断から

ガミースマイルの治療法は、今回ご紹介した以外にも様々なアプローチが存在します。多くの研究が示しているように、あらゆる治療の成功は「原因の正確な診断」という土台の上に成り立っています。

最近の論文でも、外科的治療と非外科的治療の比較検討も進んでおり、歯科医師はこれらの最新の知見を基に、患者様一人ひとりの原因、ライフスタイル、ご希望を考慮して最適な治療法を提案します。ある人には非常に効果的な治療法も、原因が異なれば思った効果が見込めないこともあり得ます。ご自身のガミースマイルのタイプを正しく知り、どのような選択肢があるのかを理解するために、まずは専門知識を持つ歯科医師に相談してみてはいかがでしょうか。カウンセリングでは、あなたの悩みに寄り添い、最適な治療計画を一緒に考えてくれるはずです。

参考文献

  • Brizuela M, Ines D. "Excessive Gingival Display". StatPearls. Last Update: March 19, 2023.
  • Inchingolo AD, et al. "Effectiveness and Personalized Approaches in the Correction of Gummy Smile: A Systematic Review of Orthodontic and Surgical Treatments". J Clin Med. 2024.
  • Maleki M, et al. "A Systematic Review and Meta-Analysis Comparing Surgical and Nonsurgical Treatments for Excessive Gingival Display". J Funct Biomater. 2024.